第9回「台本の読み込み方 Part3」
今日のテーマは
「台本の読み込み方」パート3
今回も前回、前々回の続きです。
前回と同じテキストを使って説明します。(今日初めての方は前回までのパート1・パート2もご覧ください。)
今回は台詞を覚える為に必要な、読み込み方について説明しましょう。
6回目の「演じるとは、日常の再現と想像」でも話しましたが、台本の台詞(言葉)には
感情が入っていないと話し言葉には成りません。
では、どのような感情を乗せて行くのかテキストを使って説明します。
【テキスト「待ち合わせ」】
シチュエーションは、乾・山下・杉谷・上田の4人で時給の高いアルバイトに行く為に、大阪駅で待ち合わせをしている。既に15分過ぎているが、今は乾だけが到着している。(携帯電話は圏外である)
山下 「乾さーん、ごめん、ごめん」
乾 「まだ、上田さんも杉谷さんも来てないのよ」
山下 「どうしたのかしら」
乾 「(杉谷を発見)ああ、杉谷さーん、こっち、こっちよ」
杉谷 「すいません。出掛けに人が来ちゃって・・・あれ、上田さんは?」
乾 「それがまだなのよ、遅れちゃうわ」
山下 「上田さんが来ないとわからないでしょ、道順?」
杉谷 「肝心な上田さんが遅れて、しょうがないわねえ」
乾 「あの人が言い出したのに・・・」
山下 「こんないいアルバイト、フイにしたら勿体ないわ」
杉谷 「ほんとねえ」
乾 「(上田を発見)あ! 来た、来た、上田さーん」
三人 「ああ、良かった・・・」
以上の内容です。
まず、台本の台詞を話したくなる感情づくりには、登場人物の性格付けが必要です。(前回のパート2性格付けを参考にしてください。)また、相手との関係性も必要でしょう。
では、山下さんの場合から見て行きましょう。
初めの台詞が「乾さーん、ごめん、ごめん」と言ってます。「乾さーん」と名字で呼んでいることから、深い友人ではなさそうです。しかし、「ごめん、ごめん」と言っているので同年輩だと思われます。この台詞は遅れたことへの、友達への社交辞令的なお詫びの感情と考えましょう。
次の「どうしたのかしら」は、乾さんの台詞で「まだ、上田さんも杉谷さんも来てない・・」と言う言葉を受けて、アルバイトが出来なくなることを心配した感情で「どうしたのかしら」と上田さんを探す感情。
次の「上田さんが来ないとわからないでしょ、道順?」の喋りたくなるきっかけは、これも乾さんの「それがまだなの、遅れちゃうわ」を聞いて、もしかして誰か上田さんから道順を聞いていないかなと思い「上田さんが来ないとわからないでしょ、道順?」と二人に確認も込めた感情で聞く台詞と考える。
最後は遠まわしに道順のことを聞いたけど、杉谷さんも乾さんも道順を聞いていないことが分かったので、高額なアルバイトが無くなる心配で「こんないいアルバイト、フイにしたら勿体ないわ」と愚痴る感情になる。
このように、自分の感情は前の人が話す言葉によって、その都度変って行くと考えると、次の台詞は「何だっけ」と思い出しながら、活字を追いかけなくても台詞は出てきます。
台詞は、感情で覚える事です。
乾さんの場合を見てみましょう。
一人で待っている間は、自分が待ち合わせ場所を間違えて、皆に迷惑を掛けているんじゃないかと不安になっていたが、山下さん来たことで今一番気になっているのは、バイト先に遅れて迷惑を掛けることへの心配と、二人がまだ来ない不満の感情で待っている。
山下さんの「ごめん、ごめん」に対して「まだ、上田さんも杉谷さんも来てないのよ」は、遅れている二人への不満の感情の表れです。
乾さんだけが杉谷さんのも上田さんも発見するのは、ずっと二人を探しているからです。
「(杉谷を発見)ああ、杉谷さーん、こっち、こっちよ」この台詞は、杉谷さんが目の前を通り過ぎようとしているので、慌てた感情で居場所を教える台詞。
次に「それがまだなのよ、遅れちゃうわ」は、杉谷さんの「・・・あれ、上田さんは?」を受けて、道順を知っている上田さんが遅れていることへの不満の感情と始めて行くバイト先へ遅れて行きたくない感情の台詞。
そして「あの人が言い出したのに・・・」は、二人の台詞を受けて、上田さんの責任感の無さへの怒りの感情が湧き、それを抑えている台詞。
「(上田を発見)あ! 来た、来た、上田さーん」の台詞は、おそらく必死に走ってくる上田さんを見つけた時の喜びと安心感の感情でしょう。
そして、発見するタイミングは2回とも、話が続きそうでは無い台詞の後です。
では、杉谷さんの場合を見てみましょう。
乾さんから「こっち、こっちよ」と呼ばれるまでは、次の角を曲がった所が待ち合せ場所だと思っていたので、角を曲がる辺りから走ればいいとゆっくり歩いていたところを呼ばれて、慌てて誤魔化す為に、笑いながらの「すいません。出掛けに人が来ちゃって」そして「・・・」は上田さんが居ないことに気付き、遅れているのかトイレにでも行っているのかを確認する為に「あら、上田さんは?」と乾さんに確認の為に聞く。
次の「肝心な上田さんが遅れて、しょうがないわねえ」は山下さんの「上田さんが来ないとわからないでしょ、道順?」を聞いて、上田さんが遅れていること知って自分の遅刻より上田さんの遅刻の方が、罪が重いことを印象つける為、上田さんを攻める感情の台詞。
最後の「ほんとねえ」は山下さんの「こんないいアルバイト、フイにしたら勿体ないわ」
に同調し、無責任な上田さんを攻める感情。(井戸端会議的な)
そして、最後の「ああ、よかった・・・」は三人それぞれの思いの中で、これまでの会話は無かった事にして、アルバイトに行こうと思う感情の台詞。
このように、台詞から性格やそれぞれの感情を創り出すと短いテキストの中でもドラマは創り出せます。
少し極端に思われても、それくらい創り上げないと三人の個性が出ず、何の話しかわからなくなります。これを演じてみると、意外とリヤルな芝居になります。
台詞は気持ちがあってこそ、出て来るものです。その台詞を喋りたくなる気持ちの発見こそが、台詞を覚えるコツです。
機会があれば、お友達と練習してみてください。
今日はこの辺で。
お付き合いありがとうございました。